福祉車両は、単なる「車」ではありません。車いすやストレッチャーを安全に乗せるための特殊な装備を備えたこの分野は、医療や介護、障害福祉の現場と密接に関わっています。しかし、販売や修理に関しては福祉に関する専門的な知識や技術が必要とされるため、一般的な中古車販売店では対応が難しいという現実もあります。
そんな中、福岡県久留米市に拠点を置く一般社団法人 福祉車両のたすかるは、全国でも珍しい福祉車両専門の展示場を展開し、150台以上を常時取り扱う体制を整えています。
代表理事を務める池田謙司(いけだ けんじ)さんは、福祉車両に特化するだけでなく、「あったら『たすかる』喜びと便利さを創り出す」を理念に掲げ、単なる販売にとどまらない支援のあり方を模索してきました。
高校時代に足を骨折し、野球の夢を諦めざるを得なかった池田さんは、20代の頃にスポーツカーや輸入車、価格に特化した専門店など、車の販売に関わる道を選びました。

自動車業界に携わってすでに数十年。さまざまな販売手法を試し、時には業績に波もありながら、「本当に心から人の役に立つような事業をやってみたい」という気持ちは、ずっと心のどこかにあったといいます。
「階段昇降機とか階段解消機を専門的に取り扱っている会社の社長と知り合い、福祉車両の話を聞いた時に、電気が走るような感覚になり、『これだ!』と思いました。」

福祉車両のたすかるでは、一般的な中古車販売店とは異なり、車いすの乗車に対応したスロープタイプ、ストレッチャーごと乗れるリフトタイプ、車いすが1台から4台まで積載可能な車両など、用途に応じて多種多様な車両を取り扱っています。一概に福祉車両と言っても、車いすの種類や乗車者の身体状況によっても、必要な車種は異なります。
「車業界が長かった私ですが、福祉車両は一般車とは全然違うと考えています。弊社では車両ではなく、福祉機器というようなイメージで取り扱っているので、福祉車両に対する知識と修理の技術、経験は、他社にはできない、唯一無二のことだと自負しています。」

事務所を中心に複数の展示場を構える福祉車両のたすかるでは、福祉車両のみを150台常時展示しており、販売、リースやレンタルを提供しています。100台以上の福祉車両を展示している会社は全国でも少なく、福祉車両のたすかるを含めても1〜2社ほどしかないと、池田さんは話します。
「施設などが利用するハイエースやキャラバンなど、弊社では軽自動車から大型車まで多種多様に取り扱っています。」
医療機関や社会福祉法人、老健施設などの法人に販売するほか、障害のある子を持つ親、高齢者や介護タクシー業を営む個人のお客様にも販売することが多いそうです。

来店者には希望や予算に応じて4〜5台に絞って見せるよう工夫しています。遠方からの相談にはFaceTimeなどのビデオ通話を活用し、映像で細部まで紹介。来店せずとも納得できる購入体験を整えています。
「弊社は動画や写真を用いて、事細かく説明し、お客様であるエンドユーザーにしっかり届くような仕組みを作っています。」

一般の中古車販売店で福祉車両を見かける機会は、ほとんどありません。販売や修理の現場で福祉車両に携わる機会が少ないことも、大きな要因です。
「中古車販売店の多くは、一般車が100台に対して福祉車両が1〜2台あるかないかです。加えて、利益主義で福祉車両を知っているつもりで安易に販売している所が多く、とても残念に感じています。」

事業を始めた当初は、「福祉車両を購入したお店で修理ができない」といった相談や「修理代に70万円の見積もりを出された」などの相談が、多い時で1日5件もあったと池田さんは語ります。福祉車両の販売や修理がしっかり制度化されていないことが原因だと説明します。
「弊社のように100台中100台が福祉車両という会社と数台しか扱っていない会社とでは、経験や技術が圧倒的に違います。福祉車両を販売やレンタルする場合、不動産の宅建のような免許が無いと事業をしてはいけないと考えています。」

さらに、福祉車両を製造する自動車メーカーによる部品供給の少なさも問題のひとつと指摘。数万円程度の部品が不足してしまうために、福祉車両そのものを売却や処分した経験が、これまでに何度もあったと語ります。
「販売の多い10車種の部品は弊社で在庫として用意していますが、自動車メーカーももう少し購入者のことを考えて、しっかりと部品供給すべきだと思います。」

福祉車両のたすかるでは、個人や法人への販売のみならず、「近くにある馴染みの車屋で購入できる方が安心できる」と考え、一般の中古車販売店への卸販売も行っており、より多くの人にとって福祉車両が身近になるような取り組みをしています。
「半年経っても某ディーラーで福祉車両を見つけられず、しびれを切らして弊社に来られた方がいました。50万円の予算に対して、40万円程度で販売しているラクティスをご提案したところ、喜んで即決いただきました。」

車両の納車に行った先で出会ったのは、足が不自由なお母様。杖をつきながらゆっくりと外に出てきたその方は、池田さんの目の前で涙を流し、息子さんに「やっとこれでいろんなところに行けるね」と話したそうです。その言葉に、思わず池田さんも涙がこぼれたといいます。
「ここまで涙を流して喜んでもらったのは初めてでした。帰るまで何度も『ありがとうございました』って言われて…。私は一生の仕事にしたい、とにかくこのような方を増やしていきたいと思いました。」

会社の名前にある「たすかる」という言葉には、池田さんの仕事に対する価値観が色濃く反映されています。その響きが福祉事業の本質を表していると感じ、自らの会社名に採用しました。
「この福祉車両という事業を通して、ひいては私どもの理念である「あったら『たすかる』喜びと便利さを創り出す会社」は、何があったら、どういう企業があったら皆さんが助かるのか、皆さんのお役に立てるのかを考えること。それを実現することが私の使命だと思っています。」

福祉車両のたすかるのように、一生懸命に人の助けになるよう事業としている会社があまりにも少ないと感じている池田さんは、一般社団法人 日本福祉車両協会の九州沖縄ブロック長として、資格制度の整備や広報活動にも力を注いでいます。

「好きで体が不自由になったわけじゃない人たち、その方たちを介助する人たちのために、自分たちが何ができるかを考えて動く。それが私たちの仕事です。」
福祉車両のたすかるでは、現在22名ほどのスタッフが在籍し、業務委託を含めて日々の運営を支えています。それでも現場は常に人手不足。「猫の手も借りたいくらい」と話すように、福祉車両の販売、整備、修理、清掃、さらには事務や経理に至るまで、すべての部署で人材を必要としています。

採用において特に大切にしているのは、「人の役に立ちたい」という思いがあること。特に「あったら『たすかる』喜びと便利さを創り出す会社」という理念に共感し、実行してくれる仲間を求めています。
福利厚生面では、年間126日の休日を設け、残業は原則禁止という方針も徹底。限られた時間の中でやりがいのある仕事をするための仕組みづくりにも力を入れています。
「多くの会社では残業が良しとされていますが、弊社では絶対に残業はするなと伝えています。会社のモットーのひとつに『心と身体の健康第一』があるので、オンとオフを切り替えて、最高の仕事をする環境を提供しています。ぜひ、一緒に仕事をしたいという方がいらっしゃったら、お電話ください。」

「正直、私は営利目的で始めた事業ではありません。若い頃にはいろんな事業をしてきて、お金儲けを先行させたような事業もたくさんやってきましたが、残るものがないんですよね。」
「お金はあくまで手段」と説明する池田さんは、「お金よりも、たくさんの方に心から喜んでもらえることが本当の事業」だと考え、その使命感を持って一生現役としてこれからの人生を歩んでいきたいと語ります。
ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
事業変革や新規事業への取り組み、その背景にある想いのほか、決断に至るまでの迷いや困難との格闘など、挑戦者のリアルな声をドキュメンタリー映像として視聴者に届けます。作品を通して潜在顧客や求職者が企業や挑戦者をより深く知る機会を提供するとともに、起業・独立・事業承継を目指す方々に勇気と洞察を与える、「心を動かし、人とつながる」マルチメディアコンテンツを提供していきます。
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