建設業おすすめの物語 38 ファウンダーメンタリー編集部 2025年8月30日
「家を建てたい」と思ったとき、多くの人は住宅展示場やハウスメーカー、建築家への依頼を思い浮かべますが、そのどれでもない選択肢を、晴る家(はれるや)こうむ店合同会社が提供しています。
晴る家こうむ店合同会社の代表、石崎まみ(いしざき まみ)さんは建築士、インテリアコーディネーターも兼務し、「建築カフェ」という場を運営しています。福岡市の大濠公園の目の前にオフィスを構える「建築カフェ」では、ただ建設するだけの一般的な工務店とは異なり、「建てたいけれど、どこに相談すればいいか分からない」という声に応え、建築士と直接話すことで土地や中古住宅を最大限に活用できるよう、さまざまな提案をしています。
石崎さんが建築に興味を持ったのは、小学生のころ。三角関数やXYZを使って面積を求めるような計算が面白く、パズルを作ったり、平行定規を使って絵を描くことが好きでした。

「親戚の家や友達の家に行った時に、ここがこうだったらもっといいのにと想像するのが大好きで、これって仕事になるのかなとずっと思っていました。」
母親の知人から「建築系の設計の見習いを募集している」という話を聞き、入社。その後、木造のハウスメーカーに転職し、設計士として従事しました。

「設計士として働いていた頃、休日に自宅で家具作りなどのDIYをしていました。友達が作ったものを見て、それをご両親に話したら、『まみがやっているなら、うちの家をリフォームしてほしい』という相談が、会社とは別に来るようになりました。」
友人からの依頼が少しずつ増えていき、独立を決意。設計事務所で仲の良かった同僚に声をかけ、自身の設計事務所「浪漫建築研究所」を設立しました。

浪漫建築研究所を設立してから数年間は店舗や住宅の設計のみを行い、工事自体は別の建設会社に依頼していました。建物がしっかりと設計通りに建てられるよう現場に足を運び確認していましたが、大工や設備屋、クロス屋など多くの人が関わる中で、コミュニケーションに課題を感じるようになります。
「現場のまとめ役は現場監督であるゆえ、職人に要望を伝えるには監督を通さなければならず、別の日に同じ説明をクロス屋にするなど、二重に説明する必要がありました。」

現場監督を介しても「言った・言わない」のトラブルが頻発したため、「それなら自分が現場監督をした方が良い」と考え、建設会社として「晴る家こうむ店合同会社」を新たに設立しました。

「建物に真剣に向き合ってくれる職人さんたちが多く、理想に合った職人だけを集めて工事をしたいという思いもあり、建設会社を立ち上げました。」
建設業に携わるようになったことで設計と現場のコミュニケーションは改善されましたが、簡単だと思っていたクロス貼りが実は下地づくりに時間がかかるなど、現場の苦労を知ることができたのは良い経験だったと語ります。

「リフォームや家を建てたいと考えていても、どこに相談してよいかわからない」、「設計事務所は敷居が高い」と感じる人が多いと語る石崎さんは、「カフェでおしゃべりする感覚で相談できる」場所として、建築カフェを運営しています。

土地を使って何かを建てる場合、ハウスメーカーだとその土地をすべて使って1軒だけ建てて終わることがほとんど。
石崎さんは、設計士、宅地建物取引士や司法書士、行政書士と連携し、「暮らしのこれから」に関する多角的な提案を行っています。土地の活用方法を一緒に考えたり、収益を見込んだアパートや店舗の企画を提案したりと、従来の建築相談の枠を越えた取り組みが特徴です。
「弊社では設計や建築の視点だけでなく、宅建士、司法書士、行政書士などの専門家がチームを組んでいますので、土地と建物について何でもご相談ください。」

建築カフェは、晴る家こうむ店が所在する福岡市中央区荒戸2丁目に併設しており、電話やウェブサイトから無料相談の予約を受け付けています。
車の振動、人の歩行、風の力。建物は365日24時間、静かに、でも確かに揺れ続けていると石崎さんは語ります。

「建築基準法で入れなくてもいいとされている場所にも、私はあえて構造金物をひとつ多く入れたりしています。そうすることで住まいの耐久性が上がるんです。」
こうした丁寧な施工は、意匠設計と施工の両方を経験してきた石崎さんだからこそ生まれる視点です。たとえばクロスの下地となるボードの貼り方ひとつにも工夫を凝らします。

通常の方法では剥がれやすい部分を囲うようにボードを貼る「囲い張り」にすることで、振動に強く美しさも長持ちする仕上がりになります。風や地震に強い建物は単に耐震強度を上げるだけではなく、釘の種類や本数を適切に調整することで、耐久性やメンテナンス期間を向上させることができると語ります。
「設計だけでなく、設計監理ができるからこそ、設計に沿った建物をつくれるのが当社の強みです。」
2025年4月、省エネ法の改正が施行され、住宅や建物の断熱性・気密性の向上が求められるようになり、建築の世界でも省エネへの意識が高まっています。

「省エネ法に準拠した規格住宅が増える一方で、釘しか打てない大工が増えていると思います。昔の古民家を維持したいというような、木と木を削って継ぐことができる大工さんが減っていると感じています。」
空き家問題が深刻化する中、昔ながらの大工が減少していることに危機感を抱く石崎さんは、ドイツのマイスター制度のように、国が率先して熟練の職人を認定・育成する制度が必要だと語ります。

晴る家こうむ店では、設計監理の経験を活かし、大工に対して建物に合った施工方法を教えるなど、経験の浅い大工の育成にも取り組んでいるといいます。

ある日、晴る家こうむ店に寄せられたのは、糸島にある中古住宅の全面リフォームの相談でした。依頼主は、遠く横浜から息子夫婦のために家を用意しようと考えていた70代のご両親。
「天井を抜いて梁をあらわにし、小屋裏を活かした大きな吹き抜け空間にしたのですが、完成した家を見てあまりにも感動されたご両親から、後日『横浜の家のリフォームもぜひお願いしたい』という長いお手紙をいただきました。」

建物が完成間近になると、クロスや壁を傷つけないように養生ボードを貼る「美装工事」の段階に入ります。この段階では現場の人でも最終形を想像しにくいと語ります。
「養生ボードがすべて剥がされ、美しく完成した建物を見ると、『こんなに格好よくなるんだ』と驚くことが多いです。水勾配が取れなくて削ったりした苦労もあるので、どの物件にも愛着が湧き、最後は手放したくない気持ちになります。」
建物を引き渡した後、感謝の手紙や言葉をいただくことも多く、「喜んでいただけて良かった」と感じると語ります。

「引き渡して終わりではなく、1年や半年の点検の際に『棚を追加したい』『クロスを変えたい』といった、次の相談をいただくことも多く、今でも多くのお客様と繋がりがあります。」
カフェといった店舗の施工では、完成後に什器や食器を一緒に選んだり、近隣住民に挨拶したり、オープン後の1週間は店員としてサポートしたりと、建物を中心に地域や人との繋がりを大切にする工務店でありたいと語ります。
ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
事業変革や新規事業への取り組み、その背景にある想いのほか、決断に至るまでの迷いや困難との格闘など、挑戦者のリアルな声をドキュメンタリー映像として視聴者に届けます。作品を通して潜在顧客や求職者が企業や挑戦者をより深く知る機会を提供するとともに、起業・独立・事業承継を目指す方々に勇気と洞察を与える、「心を動かし、人とつながる」マルチメディアコンテンツを提供していきます。
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