介護や障害福祉といったサービスを受けるには、要介護認定や障害支援区分の認定を受ける必要があり、認定は国家資格等を有する調査員によって、対象者の自宅や病院などでヒアリングを通して行われます。調査員は公務員だけでなく、指定事務受託法人の職員も担当しており、一般社団法人ハートステーションもその会社の一つ。主に福岡県西区と東京都練馬区豊玉北を中心に認定調査を提供している会社です。
一般社団法人ハートステーションの代表理事である平尾 京子(ひらお きょうこ)さんは、職員による質の高い認定調査を提供するだけでなく、自身の経験を活かし「女性が働きやすい」を目指して、さまざまな取り組みを行っています。
小学校の頃に祖父が亡くなったことがきっかけで、医療関係の仕事に進みたいと考えていた平尾さんは、新社会人時代、歯科衛生士として歯科医院で働いていました。
「訪問診療で大きめの歯型を取ることになったので、患者が苦しまないように1秒でも早く行いました。その熱意が伝わったのか、感謝されたのですが、お金の代わりにオムツの中に手を入れて、排泄物を取り出したのです。」

その出来事にかなり驚いた平尾さんは、同行していた歯科医から「さっきの人、認知症だったね」と言われたことをきっかけに、初めて認知症や高齢者への興味が湧いたと語ります。
「『認知症ってなんだろう?』という疑問が生まれ、その後認知症や高齢者について勉強し、ケアマネジャーとその上位の主任ケアマネジャーの資格を取得しました。」
当初は資格を取るだけと考えていた平尾さんでしたが、ケアマネジャーの仕事をやってみたいと感じるようになり、歯科衛生士を辞めて介護・福祉の世界に進むことになりました。

ケアマネジャーとして勤務する中で、高齢者の心を開くことに苦労したという平尾さんは、「相談しやすい人」になるため、社会福祉士の資格も取得しました。その後、結婚や出産を経て育休後に勤めていた会社に復職するつもりでしたが、簡単には戻れなかったと平尾さんは語ります。

転職を考えたものの、小さい子どもを育てながら働ける会社はなかなか見つからず、苦労したと平尾さんは語ります。
「2人目を産んだ後に職場復帰しようと思いましたが、私が休職中に土曜日の出勤が入るようになってしまい、勤務時間が保育園の閉園時間にどうしても間に合いませんでした。職場に戻りたくても戻れない状態でした。」

起業を決意した平尾さんは、経験がなかったため、インターネットで定款について調べたり、開業資金を懸命に集めたり、夫を説得するなど、さまざまな壁を乗り越えて、一般社団法人ハートステーションの法人設立を実現しました。

「弊社は子育てしている職員も多いため、子育てしやすく仕事も頑張れるというのは、他社に比べて勝っていると考えています。」
子どもが病気にかかると、5日間休まなければならないケースも多く、会社が了承したとしても、会社や同僚への申し訳なさや心苦しさを感じてしまうと平尾さんは語ります。
「休んだ時の会社や同僚への申し訳無さは、私だけではなく、育児経験者の皆さんが感じているものだと思います。私自身同じ経験しているので、『その気持ち、わかるよ』というスタンスで、会社を運営しています。」
ハートステーションでは、職員の子どもの病気や介護が必要になった際、グループLINEに報告するだけで、5分も経たないうちに他の職員が代わりを申し出たり、職員同士で励まし合う環境が整っており、「皆が助け合う」職場になっているそうです。

「子育てを終えた、60歳以上のベテラン勢も、『子育て頑張ってるね。調査は私が行くから大丈夫よ』と職員同士が快く代わってくれるので、気を負いせずに休むことが出来ます。」
また、ハートステーションでは離職率が1.5%と低く、ベテラン勢が増えていくことで、他社にはない認定調査の質を担保できるほか、職員のスキルアップも確実に図れると平尾さんは語ります。
「弊社では事務所に出勤することがあまり無く、職員さんの自宅から、調査対象者の家に赴き、帰宅して入力作業を行う直行直帰なので、家事と仕事を両立できます。」

子どもとの時間を大切にしている平尾さんは、直行直帰が可能な認定調査に加え、子どもといる間は一緒に料理をしたり、宿題を見たりして過ごし、子どもが就寝した後などの空いた時間に入力作業を進められるような、子育てを重視した環境を提供しています。

「認定調査は毎回初対面の方なので、対象者の人物像がわかりません。訪問したらゴミ屋敷になっていたり、すでに亡くなっていたという事もあるので、毎回緊張感を持って、皆調査しています。」
認定の申請は介護などが必要な本人に限らず、家族やケアマネジャーが行うこともあります。そのため、認定調査で訪問した際に強く拒否されたり、調査員の前で親子喧嘩が起き、何も進められないなど、初対面の方に話を聞くのが容易ではない場合もあると平尾さんは語ります。
「職員同士で「このような時はどうする?」と情報共有したり、他の職員の工夫を聞き、落とし込んで自分のやり方を作るなど、状況に応じて質問内容や対処方法を変えてます。」

認定調査でのトラブルはある程度つきものですが、それ以上にさまざまな場面で「ありがとう」と感謝される仕事だと平尾さんは話します。
「調査後の帰宅準備の際に、相手がホッとされて『あなたが来てくれて良かった。ありがとう』と伝えてくれます。その『ありがとう』を直接聞けるというのは、すごい励みになり、お役に立てて良かったと感じます。」
認定調査員になるには、介護と障害それぞれで必要な条件が異なります。介護保険の場合、ケアマネジャーや看護師、社会福祉士など医療・介護に関わる資格を有し、さらに5年以上の実務経験が必要です。
障害支援区分の認定調査員の場合、資格は必須ではありませんが、障害者に関する知識をある程度持っていることが望ましいため、障害者と接点があると仕事のイメージがしやすいと平尾さんは語ります。

介護保険の認定調査員は国家資格などが必要で、ややハードルが高めですが、ハートステーションでは研修制度を充実させており、認定調査が初めての方でも安心して働ける体制を整えているそうです。

起業当初は一人だったハートステーションですが、3年後には東京にも拠点を構え、少しずつ規模を拡大し、現在では福岡と東京の2拠点で職員を60人ほど抱えるまでに成長しました。
「女性が働きやすい環境を、もっと増やしたいと考えています。」
自身の経験をもとに、子育てと仕事の両立が難しいと感じている同じ境遇の女性たちに、仕事がしやすい環境を提供し続け、職員から喜ばれていると平尾さんは語ります。

「皆、和気あいあいと仕事して、お互い助け合える環境をずっと提供できればと考えています。日本はまだまだ女性が働きやすい社会にはなっていないので、これからももっと女性が働きやすい社会を作っていきたいです。」
不登校の子どもを抱える職員はハートステーションで働くことで業務中にたびたび帰宅して様子を見たり、子どもと会話をする時間が取れるようになり、「この会社があったから働くことができた」と話す職員もいます。そのような職員の姿を見て、「起業して良かった」と平尾さんは感じたそうです。
平尾さんはさらなる挑戦として、精神保健福祉士の国家資格も取得。調査対象者やその家族の心に寄り添うだけでなく、職員の心の健康をサポートし、より良い会社にしていきたいと語ってくれました。
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