大学生の頃に起業し、「異なる価値観を持つ人同士が出会い、人生を変える」という思いで数々の事業を展開している、株式会社IWの代表取締役社長の増田雅人(ますだまさと)さんは、これまでにインバウンド向けの多言語化メニュー事業とフリーペーパー事業を経て、現在は推し広告代理事業と日本酒体験事業の2つを提供しています。
「両親とも小学校の先生の教育者でした。非常に厳しい家庭で、鳥かごの中で育てられるような感じがして、世の中に対して生きていくのが苦しいと思っていました。」
「常に真面目に生き、ルールは必ず守りなさい」という両親の教育方針に従っていたものの、中学生の頃に反発するようになり、さらには高校を中退し、警察にお世話になるなど反抗的な行動が目立ったと増田さんは語ります。

「「お前のせいで、俺は仕事を失いかけている」と父親に言われ、両親は自分を見ているのではなく、世間体を気にしているんだなと当時は感じていました。」
大人になるにつれて、「このままで大丈夫だろうか?」という漠然とした大きな不安が増田さんを襲います。その後、バイト先で当時の増田さんにはなかった自信や、何かをする時の勇気を兼ね備えた大学生の店長に出会い、自分を変えたい思いで相談したと語ります。

「先輩から「自分を変えたければ環境を全部変えろ」と言われ、オーストラリアに留学しました。」

留学前は他人の目を気にする性格で、「自分の意志で自分の進むべき道を選択する」ことがなかった増田さんは、オーストラリアのハミルトン島にあるホテルのキッチンで同僚の女性に出会います。
「一言でいえば「クレイジー」で、常に騒がしい方でしたが、ある日僕に真剣な眼差しで「Just be yourself(自分らしく生きなさい)」と投げかけ、そのギャップにビックリしました。」
オーストラリアの人々は貧富の差に関係なく、それぞれの人生を楽しんでいると感じ、増田さんはそれを見て憧れを抱き、そのように生きてみたいと思うようになります。同僚が投げかけた言葉と、オーストラリアでの経験を通じて、「自分が今後どうなりたいか」を真剣に考えるようになり、人生をより楽しく感じられるようになったそうです。

「異なる価値観を持つ人との出会いを創り、他人の人生を変える出会いも創る、そのようなことがしたいと思い、留学後に起業を決めました。」
増田さんはオーストラリアから戻った後、個人事業主として大学在学中に起業します。最初に始めた事業は飲食店向けの外国人観光客向け多言語化メニュー事業で、既存メニューの翻訳のみならず、「グローバルデザインメニュー」という国籍に合わせて最適なメニューを作成するサービスも提供していました。
多言語化メニューは外国人観光客に一定の効果があったものの、お店への来店を促すためのプロモーションが必要だと感じ、韓国語と中国語(繁体字)に絞った福岡観光のフリーペーパー「Yoka Map」を刊行します。

多言語化メニューに比べ、フリーペーパーは福岡県や大手企業がクライアントになることもあり、信用の問題を解決するため、株式会社IWとして2018年4月に法人化します。
「法務局に行って登記簿謄本などの申請は全て1人で行いました。相当大変でしたが、せっかく会社を創るのだから誰かに頼るのではなく、自分でやってみようと思いました。」
フリーペーパー事業は観光地に到着した際に得られる一次情報として最適ではあったものの、韓国や台湾などのインターネット文化に合わせたプロモーションを行うべきだと増田さんは考えます。ブロガーやYouTuberを福岡県に招き、お店や百貨店などを紹介してもらうインフルエンサー招聘事業を同時期に展開しました。韓国のブロガーが紹介したお店は数十万PVを達成し、長蛇の列ができるほどプロモーションは成功しましたが、日韓関係の悪化や新型コロナウイルスの影響を受けることになります。

「韓国人インフルエンサーの招聘事業は成功し、黒字化したことで「ようやく行ける」という段階で、日韓関係悪化により地獄に叩き落とされました。」
2019年に発生した日韓関係の悪化は、インフルエンサー招聘事業の売上に9割減の影響を与えました。その後、台湾・香港のインフルエンサーへ方向転換し、売上が戻ったものの、束の間で2020年の新型コロナウイルスによってインバウンド関連事業が停止し、売上がゼロになります。会社の生き残りをかけて新規事業を行う中で、たまたま佐賀県の酒蔵に出会います。
「飲食店の営業がストップし、日本酒の在庫が多く、来年以降お酒を作り続けるかわからない状況になっていた酒蔵さんでした。弊社も同じ状況だったので、すごく共鳴し、僕らができることはここにあると直感的に思いました。」

佐賀県の酒蔵を皮切りに、日本酒体験事業である「ハンズオンSAKE」を開始し、オンラインで酒蔵のオーナーと一緒に飲める「オンライン酒蔵留学」、そして出資することで日本酒タンクのオーナーになれる「SAKEクラファン」の2つのサービスを提供し始めます。
「居酒屋や酒屋でお酒を買うことや触れる事があっても、お酒の造り手さんと会う機会は一切ないと感じました。これだけ命をかけて美味しいお酒を造っているのに、その造り手の情熱を知らないまま飲むというのは、消費者にとって物凄くもったいない事だと思いました。」
「ハンズオンSAKE: オンライン酒蔵留学」は、家に居ながら地方の酒蔵の社長や杜氏と一緒に乾杯ができ、「お酒の造り手と飲み手をダイレクトに繋ぐ」ことを可能にしたサービスです。

ウェブサイトで申し込んだ後、酒の飲み比べセットが送られ、ある土曜日の夜にビデオ通話を通じて酒蔵の関係者と一緒に飲み会をします。その際、お酒のコンセプトやどの料理に合うかを知るだけでなく、造り手の人柄やビジョンを聞くことができ、「これ以上無い、つまみになる」と増田さんは語ります。
もう一つのサービスである「SAKEクラファン」は、日本酒に特化したクラウドファンディングです。応援したい酒蔵に出資して、リターンとして日本酒を受け取るだけでなく、出資することで日本酒タンクのオーナーとなり、酒質設計会議に参加して米や酵母、ラベルデザインの選定、販売価格の決定など、新しい日本酒を酒蔵と一緒に造ることができる「SAKE 3.0」というプロジェクトを提供しています。

「皆で企画し、造り、販売するファンと一緒に造る新しい酒ブランド。私達は「SAKE 3.0」と呼んでいます。このプロジェクトに参加したら、間違いなく支援した酒蔵と日本酒のファンになっていると思います。」
日本酒体験事業を提供している増田さんですが、元々は日本酒が苦手で、遺伝的にもあまりお酒は強くないとのこと。「日本一お酒の弱い唎酒師」と名乗り、活動しています。
「現在は日本酒が好きになりましたが、僕みたいにお酒が弱くても量ではなく質を重視した、一滴から楽しめるお酒も多くあると、弊社サービスを通して提供できればと考えています。」
アイドルやYouTuberなどのタレント、スポーツ選手の誕生日を祝い、街頭ビジョンや交通広告に応援広告として掲載する「センイル広告」は韓国で始まり、日本でも広がってきている新しい文化です。
「今までこの推し広告は主にお金持ちや大きめのファングループ(ファンダム)を運営している方しかできませんでした。個人的にそれが面白くないと感じ、自分の推しを自分の応援したい形でできる、センイルクラファンを立ち上げました。」

「センイルJAPAN」では、センイルクラファンというクラウドファンディングを通して無料で推し広告のプロジェクトを作成・掲載し、SNSなどで告知を通じて他のユーザーから出資を募り、目標金額に達すると広告掲載が実現します。
「500円や5,000円といった少額から出資できるので、個人でも自分の推しを応援できる環境を整えています。」
元々、韓国人スタッフの友人が「新宿で推し広告を掲載したい」と相談したことがきっかけでした。無事に新宿に広告が掲載されたことで、友人や推し広告を実現したかった業者だけでなく、掲載された推し本人からも感謝のメッセージを受け取り、増田さんは驚きと感動を覚えたそうです。
「推し広告を初めて掲載した後、この文化は非常にポジティブで誰も損しないと考えたので、この事業を本格的に始めることにしました。」

通常の広告と異なり、専用の広告プランを各広告媒体に作ってもらったり、ブログやSNSを通じて推し広告文化を広めたことで、「私たちの活動によって日本での推し広告の理解度を進められたことに自信を持っています」と増田さんは語ります。

「「人生が変わる出逢い」を創る。が経営理念です。「自分の推しを応援しよう」という人達を集め、結果的に繋がり、出会いが生まれるようなツールを創りたいと思い、推し広告代理事業と日本酒体験事業を始めました。」
多言語化メニューから現在の事業に至るまで、「何をやるか?」という事業内容は異なるものの、経営理念の「人生が変わる出逢いを創る。」や「世界を繋ぐ架け橋を創る。」といった「なぜやるのか?」という根本的な部分は、どの事業でも創業当時から変わらないと増田さんは語ります。

「本当に幸せな経営をしたいのであれば、「お客さんは誰なのか?」を考えること。「誰を幸せにしたら、自分も幸せになれるのか?」を考えるのが重要だと思います。」
推し広告代理事業と日本酒体験事業は年齢層やユーザー層が異なりますが、「推し」への情熱はどちらも同じです。事業を通してさまざまな人と出会い、その面白さを感じたことで、これらのサービスを提供できて良かったと笑顔で増田さんは話してくれました。

今後の展望として、日本酒体験事業では全国の酒蔵で「SAKE 3.0」を広げたいほか、推し広告代理事業ではファンダム向けのサブスクリプション機能や、カフェとのコラボ、サイネージでお祝いメッセージ表示や投げ銭機能を加えた「推し花」の展開を考えているそうです。
ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
事業変革や新規事業への取り組み、その背景にある想いのほか、決断に至るまでの迷いや困難との格闘など、挑戦者のリアルな声をドキュメンタリー映像として視聴者に届けます。作品を通して潜在顧客や求職者が企業や挑戦者をより深く知る機会を提供するとともに、起業・独立・事業承継を目指す方々に勇気と洞察を与える、「心を動かし、人とつながる」マルチメディアコンテンツを提供していきます。
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