外国産のたけのこの輸入や少子高齢化が原因とされる放置竹林は、日本全国で多く見られる環境問題の一つです。福岡県も例外ではなく、古賀市では、食品事業を経営しているマルクル株式会社の代表取締役社長の本田哲也(ほんだ てつや)さんを筆頭に「火曜日の竹林隊」というボランティア団体がこの問題に取り組んでいます。
「ナンバーワンの商品ではなく、「オンリーワンの商品」を一つでも良いから、持ってたほうが良いよと言われ、「味の助」が誕生しました」
大学を卒業し、すぐに個人事業主として独立した本田さんは、当初代理店業として女性向けの美容品などを販売していましたが、古賀市の農産物直売所に惹かれ、知り合いからのアドバイスを受けて「オンリーワンの商品」を作るべく、オリジナル香辛料を開発しました。

市販の塩こしょうには、かさ増しの役割となる「増量剤」が含まれており、「増量剤を加えない、国産の材料」の香辛料を作りたいと考えていた本田さんは、熊本県産のガーリックパウダーと天草市で取れた塩をブレンドした「味の助(あじのすけ)」を完成させました。

「「ほっと味の助けになる」という意味を込め、「味の助」と名付けました。増量剤は加えず、国産の材料を使用したり、ブラックペッパーは粗めに、ホワイトペッパーは細分化するといった削り方や味のバランス調整などを行ったのが大きなこだわりです。」
ベースとなる塩こしょうに加えて、レモン風味の「味の助 檸檬」が商品ラインナップに追加され、お客さんから好評だと本田さんは語ります。味の助は古賀市の農産物直売所の「コスモス広場」や高速道路のサービスエリアのショップのほか、ECサイト「コガゴロストア」やコワーキングスペース「CREATE SPACE MIRACO」で購入可能です。
「味の助は素材の味を活かす事のできる香辛料ですので、塩こしょう風味のからあげやチキンカツ、地元産の野菜を使った煮物や厚揚げ卵などの弁当や惣菜の商品開発、製造販売も行っています。」
味の助を購入したお客さんは、比較のために以前使用していた市販の塩こしょうに戻ることがあるそうですが、味の助がより美味しく感じるためか、また味の助を購入する方が多いようです。このため、本田さんは「私の商品は必ず市販品に浮気されますが、また戻ってきます」と冗談を交えたセールストークを行うと、笑いながら語ります。

本田さんは個人事業主として20年以上経営した後、2020年に「マルクル株式会社」として法人化。香辛料や弁当に加えて、竹林整備で生まれたメンマ「くまちくシャキッとメンマ」の製造販売も行うようになりました。

「これまで環境問題や放置竹林について全く興味がなかったのですが、異業種交流会に参加された社長さんが放置竹林に取り組んでいるというお話を聞き、「古賀市ではどうなのか?」と深堀りしたところ、同様の問題があると知りました。」
これまでの日本では、食と暮らしの中で竹が多く使われており、たけのこ農家が国内で竹を生産していたものの、昭和50年代を境に輸入たけのこが増え、竹素材からプラスチックへと代わっていきました。国内での竹の需要が減少したことで、たけのこ農家が竹林に入る理由もなくなり、竹が育ち続けるだけの放置竹林が増えたのが原因だと本田さんは語ります。

「小さな力ですが、我々が先頭を立って竹林整備に取り組むため、「火曜日の竹林隊」というボランティア団体を作りました。」
2023年の1月に発足した「火曜日の竹林隊」は、事務所として利用している「CREATE SPACE MIRACO」の定休日が火曜日であることからこの名前が付けられ、毎週火曜日の11:00〜14:00に古賀市の筵内(むしろうち)にある竹林の間伐や、枯れたり折れた竹を燃やすといった整備活動を行っています。立ち上げ当初は5人だったものの、活動を通して考えに共感した方が多く集まり、現在は25人の団体へと成長しました。
「見よう見まねで始めたので、竹の切り方などは試行錯誤でやっていました。処理方法も当然わからなかったので、YouTubeが先生で頑張ってきました。」

「火曜日の竹林隊」はアルバイトのように賃金は発生しない、ボランティアの力を借りての整備活動であるため、「自由に活動できる」スタンスには良し悪しがあり、相手を拘束できない部分が一番大変だと本田さんは語ります。
「福岡県糸島市に住む日高さんが進めている「純国産メンマプロジェクト」は幼竹を利用し、メンマを作り、それを食べることで放置竹林の環境問題を解決する取り組みです。そこからヒントを得て、私達も同じような形でメンマを作ることにしました。」

食品関係の仕事に携わっていた本田さんは、作るなら同じものではなく「オンリーワンの商品」のメンマを目指すため、さまざまな試行錯誤を行い、筵内の熊野神社にある竹林から取れた幼竹を使った「くまちくシャキッとメンマ」を開発しました。
「本来メンマは発酵食品なので、独特な発酵臭を放ちメンマが苦手な方も多いのですが、私達の「くまちく」メンマは発酵の工程は入れてません。また、たけのこの中で一番美味しく、肉厚で非常に良い食感が特徴のモウソウチクを使っています。」

当初は冷凍メンマを開発したそうですが、物流での問題点が多いと感じた本田さんは、常温のメンマを商品化すべく古賀市でレトルト食品を製造する会社と提携し、2024年に念願の常温商品が完成しました。
「ボランティアの力を借りることで、幼竹を切る作業や茹でたり、保存する作業までのコストは掛かりません。しかし、工場での加工費はかかるので、メンマの売上から賄うことができています。」

「くまちく」は市販のメンマと比べて、身が大きくシャキッとした食感と、煮物のようなしっかりとした味付けになっているので、そのままでも美味しく食べられますが、「味の助をふりかけた、メンマと大葉の豚の肉巻き」が一番おすすめの調理方法だと本田さんは語ります。
本田さんは「たけのこの里、古賀」を目指すため、今後も「くまちく」をはじめとした、たけのこを活用した商品を開発していきたいと考えています。

「枯れたり、折れたり、成長しきった竹を処理しなければ本来の意味の放置竹林整備にはならないと思っています。私達の出口戦略として、今後もメンマやバイオ炭を作るなどして、将来的には正業として賄っていきたいと考えています。」
火曜日の竹林隊は、幼竹を使ってメンマを作るだけでなく、整備した竹を燃やしてできた竹炭を二酸化炭素の削減や土壌改良に役立つ「バイオ炭」として生成する取り組みも行っています。バイオ炭を農地に施用することで、都道府県や市区町村から「環境負荷低減事業活動に取り組む生産者」として認定され、作物の価値を上げることができます。

古賀市では、スイートコーンが新特産品として近年生産が盛んです。スイートコーンの農地にバイオ炭を施用し、国からの認定を受けることでブランド化が進み、農業者の所得を上げるだけでなく、若者たちに農業へ携わる夢や希望を与えていきたいと本田さんは語ります。

「竹林問題に取り掛かって良かったと感じることが、大手企業を中心に環境保全の活動がいたるところに進んでおり、その方々と放置竹林や環境問題についてお話する機会をいただけたことです。」
環境問題に取り組む一員として、大手企業との関係を築けただけでなく、火曜日の竹林隊に参加する方々から、これまでの社会経験の話などを聞くといった交流が生まれたとのこと。竹林隊のメンバー同士が仲良くなっていくことから、この活動を通して「新しいコミュニティ」ができていると本田さんは感じているそうです。
「私達ができることをコツコツこなしながら、「元の森に戻していく」という非常に大きなテーマとなりますが、そう思い続ければ叶うと信じています。」

現状、ボランティア活動であることや「くまちくシャキッとメンマ」の認知度が低いことなど、竹林整備の課題はまだ山積みですが、本田さんが思い描く環境保全の問題が少しずつ解決していくことで、「環境に配慮したまち、古賀」を目指し、その考え方をベースに古賀市のさまざまな産業が発達していけば良いと本田さんは語ります。
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