福岡県古賀市にある株式会社ナダヨシは、一般的に加工が難しいとされているステンレスを自由自在に操り、お客様の要望に応じて特注品の受注生産を行う板金加工製造業です。
1981年に「灘吉厨房設備有限会社」として創業し、40年以上にわたりトラックや冷凍車や空港の給油車といった特殊車両のパーツのほか、厨房設備、空調設備や装飾金物など、ステンレスを中心とした板金加工を手掛けています。
また、そのステンレス加工の技術力を活かして、数多くの賞を受賞しており2代目社長として就任した植木 剛彦(うえき たけひこ)さんは、先代である父親の意志を受け継ぎながら、技術力の向上と新しい取り組みに挑戦し続けています。
長崎県出身の先代社長は、先祖から続いた漁船「灘吉丸」が、諫早湾干拓事業によって途絶えることを知り、植木さんが10歳のときに創業した会社に船名を残し「灘吉厨房設備有限会社」と名付けました。

「両親が会社を回していた時は、昭和の父ちゃん母ちゃん経営から始まり、少しずつ大きくしてきました。事業承継するにあたり、『もっと内容がよくできるはずだ』と考えて突き詰めていったのは、私の代になってからでした。」
子供の頃から父親が経営する会社に出入りしていた植木さんは、「会社を継ぐことになるのだろう」となんとなく考えており、そのために工業高校に入ろうと父親に相談しましたが、「この会社がどのくらい継続できるか、確約はできないので、普通高校に行きなさい」と言われました。

普通高校から大学へと進学後、関東での社会人経験を経て、ゆくゆくは後を継ごうという思いが生まれたことから、修行として福岡にある研磨会社に6年間就職。その後、ナダヨシに入社して経験を積み、専務として会社を牽引します。
先代の時は業績も良く、利益体質であったものの、融資に関しては「長期で可能な限り借りて、持ち分から使う」状態であったため、資金繰り計画が明確にならず、新規の融資においては返済計画に大変苦労したと植木さんは語ります。
「経営を整理するためよろず支援拠点に相談して、短期融資で運転資金を回すようにして、資金繰りを改善させ承継後も上手く会社を回せたと思っています。」

「街中でキラキラ光るトラックを見かけたら、大体ナダヨシが作っていると思っていただけたら良いです。」
株式会社ナダヨシでは、特殊トラックや特殊車両向けのパーツ製造が40%を占めており、主力商品です。その他、手術室の空気清浄機といった空気設備が10%、流し台やフードなどの厨房設備が10%、機械部品や装飾金物、建築金物が5%の割合で製造しています。
「我々はオーダーメイドでものづくりをしていますので、良いものを作るためにはお客様の声をちゃんと聞くことを大事にしており、『提案型のものづくり』を提供しています。」

ナダヨシでは、顧客の用途に合わせたカスタマイズ商品が多く、顧客が「こういう風に作りたい」と要望すれば、「どういう意図で、そのように作りたいのか?」をしっかり聞き出し、ナダヨシのノウハウと技術力を活かして、「このように曲げたり、溶接すれば強度が増す」などの提案をしているそうです。
「たとえ利益が下がることがあっても、お客様の要望を満たすものを提案し、技術力で形にすることを売りにしています。製品を納品した際に、『良いものを作ってくれてありがとう』と感謝されると、嬉しいですね。」
「丈夫で長持ち、かつキレイ」な良い商品を製造する一方で、同じ注文が次に来るのは数年、または数十年後になることが多いので、これがこの商売のジレンマだと植木さんは笑いながら語りました。

また、「ナダヨシオンラインショップ」を通して、ステンレス板にレーザー加工を施して写真を印刷するステンレス似顔絵をはじめ、ステンレス折り鶴や漢字などのオリジナルのデザインバックルベルトなど、BtoC向けの商品も販売。

インテリアとして楽しめる商品のほか、布を縫うための柄の入った「刺し子」は近年人気の商品であると植木さんは語ります。

「父親の代から始めた時は、『とにかく皆元気で、バリバリ働く』というのが強みで、町内の『バレーボール大会優勝』のような賞状を社内に掲示していましたが、とある先生から『すぐにこれを外して、代わりに会社の技術力によって得られた賞を飾りなさい』とアドバイスされました。」
そのアドバイスを受けて、社内には資格を掲示するようになり、その後は優秀板金製品技能フェアといったコンテストに参加し、数多くの賞状を飾るようになったと植木さんは語ります。
優秀板金製品技能フェアを主催する会社の営業の方からの勧めで、初めて出品した作品「真鯛」で技能賞を受賞したナダヨシ。授賞式に参加するために東京に向かった植木さんらは、他社の作品を見て衝撃を受けたそうです。
「我々はこの街で一番の技術力だと勝手に思っていましたが、本当に井の中の蛙でした。我々よりもすごい作品が多く、とても刺激を受け、『これは毎年見ないといけない』と感じました。現在まで欠かさず技能フェアに出品しています。」
「真鯛」の作品を皮切りに、厚生労働大臣賞を受賞した「240面体」など、数多くの作品を出品中でも初めて金賞を取った「宝箱」は、植木さんにとって思い入れのある作品だと語ります。

「『宝箱』はリーマンショックによる不況の中で生まれた作品で、世間が助成金を受け取る風潮の中、『今こそ会社に来て技術を磨くべきだ』と考え、従業員が日曜も交代で出勤し、製作しました。」
銀行や税理士からは「そんなことはせずに、取引先に頭を下げて仕事を取りなさい」と苦言を呈されながらも、3ヶ月かけて「宝箱」がやっと完成し、金賞を受賞しました。
「金賞受賞の知らせを受けた時は、本当に嬉しかったですし、銀行から融資の話も出て、弊社で初めてレーザータレパン複合機を購入する意志が生まれました。導入してからは業績も伸びたので、思い出深い作品です。」

「この業界の問題の一つとして、国民がものづくりに興味を持たなくなっていることだと思います。私の子どもの世代を見ても、『素材から何かを作る』行為をする若者が少ないことに危惧しています。」
株式会社ナダヨシでは入社する人に対して、一昔前に多かった「俺の背中を見て覚えろ」や「音で判断しろ」といった方法ではなく、熟練の職人が二人羽織のように、わかりやすく説明し、絵を用いるなどして、的確かつ優しい指導を心がけていると植木さんは語ります。

「入社すれば否応なく物に触れるので、次第にものづくりに興味を持ち、好きになれば上達していきます。未経験の方でも問題ありません。」
精密板金加工を含む製造業では、未だに「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが持たれることに対し、もったいないと感じている植木さんは、このイメージを払拭するために社内で様々な取り組みを行ってきました。
「これまで紙で伝達していたことは、すべて各自のスマートフォンでできるようにしたり、3DCADを自由に操り、それを機材の操作パネルに送信して、重たい金型の設置を手動ではなく自動で行えるようにしたりと、一昔前とは違う働き方に変えていきました。」

「サッと定時に上がり、私服に着替えてジムに行く」ような、今の時代に合わせたスタイリッシュな働き方に変えながら、より働きやすい会社にするため、最新設備の導入などを通じて社員満足度を上げていくのが、今後の目標だと植木さんは語ってくれました。

「『素人発想、玄人実行』という経営理念には、『素人が考えたものを玄人の腕で形にする』という意味と、『我々自身が素人のような柔軟な発想を持ち、形にしていく』という、ダブルミーニングを込めています。」
この理念を掲げるナダヨシでは、ものづくりの精度と技術力を高めつつ、常に柔軟な発想力を持ち、「人が思いつかないような、どうやって実現できたのか」と驚かれるような数多くの作品や商品を作り出してきたと植木さんは語ります。

「我々の仕事は、収まった場所で評価されるような仕事です。たとえば、福岡工業大学の塩浜総合グラウンドにあるロッカーは、実は設計から製造までナダヨシが手がけたものだと多くの人に知ってほしいですし、納品後にお客さんから感謝されると嬉しいです。」
また、社員が「あれ、お父さんが作ったんだよ」と完成したものを家族に自慢できることもあり、誇りを感じられる仕事だそうです。
「今後も、出来上がった商品で多くの人が喜んでくれて、幸せになってもらえるようなものづくりをしていき、地域社会に貢献できる仕事をしていきたいと考えています。」
ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
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