一般的に、病気や障がいがあったり、介護が必要になると、気軽に行けるはずの近所での買い物や遠方への旅行のハードルが高くなり、行きたい場所を諦める方が多くいます。
そのような問題を解決するため、大橋 日出男(おおはし ひでお)さんが代表を務めるNPO法人 あすも特注旅行班では、旅行などの外出を希望するお客さんに対して最適な旅行計画を作成し、当日は看護師や理学療法士が付き添うなどして、病気や障がいがあっても旅行を実現できるよう支援しています。
福岡県春日市で生まれ育った大橋さんは、10代の頃、将来何をすべきか迷っていました。しかし、「人の誕生から亡くなるまで」の一生に関わることができる看護師の仕事に興味を持ち、大学病院で15年間看護師として従事しました。

「外科病棟で働いていると、末期がんの患者が入院中に亡くなる場面を多く目の当たりにしてきました。外出できる瞬間を逃すこともあったり、責任問題の関係で実現が難しいと感じていました。」
大橋さんを含む病院職員は、可能な限り患者の要望に応えたいと考えていましたが、限られた人員や医療制度、器具などの様々な制約により、病院組織内では患者の願いを叶えられないことが多かったと語ります。

酸素吸入を必要とする患者の場合、入院中に使用している酸素ボンベは外出時に持ち出せず、病院外では「在宅酸素」を使用する必要があります。しかし、入院患者は病院での酸素と在宅酸素を併用できないため、酸素吸入が必要な患者は外出が難しいのが実情だったと、大橋さんは語ります。
「酸素吸入を例にしても、患者の要望と医療制度とのジレンマで苦しみました。このような問題に対し、私どもが酸素ボンベの在庫を持つことで外出を希望する患者の願いを叶えるという解決策を考え、NPO法人あすも特注旅行班を立ち上げました。」
社名の「あすも」は「明日も」に由来し、「明日も行けるよ」「明日も行きたいね」といった、未来への希望を持てるような名前にしたと語ってくれました。

一般的な旅行会社の業務である旅行の相談やホテル・交通手段の手配に加え、病気や障がいのあるお客さんが安心して旅行できるよう、バリアフリー対応の施設の事前調査、自宅への送迎、車椅子などの福祉用具の手配にも力を入れていると、大橋さんは語ります。
また、遠方への旅行だけでなく、買い物や推し活、一時帰宅といったお出かけのほか、冠婚葬祭や転院、引っ越しの付き添いなどのサービスも提供しており、割合としては日帰りの外出が多いそうです。
「旅行計画では、事前に訪問相談を行うことを原則とし、行きたい場所とやりたい事に対して、過不足なく応えられるよう旅行前のヒアリングを大切にしています。その上で『どのような準備が必要なのか』を考えて計画を立てます。」
家族が旅行を計画したものの、手配の途中でわからないことが多かったり、旅先で様々なトラブルに見舞われ、本人と家族が険悪なムードになり、ストレスを感じるケースもあると、大橋さんは語ります。

「ご本人とご家族の方は楽しむことに専念していただき、前準備や当日のサポートといった心配な部分に対しては弊社で引き受けますとお伝えしています。意外と他人の目があることで、お互い円満に進むことがあります。」

利用者の多くはご年配の方ですが、年齢に関係なく、病気や障がいのある方であれば誰でも、あすも特注旅行班のサービスを利用できるとのことです。
「車椅子で電車を利用しようとすると、階段を急いで上り駆け込み乗車をするという事は絶対にできません。そのためエレベーターを使用するのですが、列が長いと、10分以内の乗り換えは厳しいです。」
健常者が5分で電車を乗り換えられるとしたら、車椅子の利用者はその4倍の20分かかるため、「我々が考える以上の時間を確保する必要がある」と大橋さんは語ります。そのため、当日の人員や時間の調整、旅行先の下調べがとても重要だそうです。

「車椅子の方が泊まるホテルにバリアフリーの客室がある場合、インターネット上の情報だと全てわからないので、『トイレの手すりが右側にあるか、左側にあるか?』など1軒、1軒問い合わせる必要があります。」
このサービスでは「準備が8割」と語る大橋さんですが、「お客様に丁寧な旅を計画し、提供する」という思いが、あすも特注旅行班にはあると話します。

これまでに10年以上、1,500人以上のお客さんに質の高いサービスを提供できたことは嬉しい反面、経営上の課題は山積みだそうです。
「良い旅行を提供するために色々計画すると結果的にコストが掛かってしまい、手を掛けたいと思いつつも、そこまでは出来ないというジレンマを感じています。」
普段から1割または3割負担の価格感に慣れている方にとって、保険適用外の介護付き旅行は全額自己負担(10割負担)となるため、驚く利用客も多く、「高すぎる」や「0が1つ多い」といった厳しい意見をいただくこともあると、大橋さんは語ります。

「他社の中でも私どもは、なるべく良心的な価格を心がけています。価格をお伝えすると、逆に『その値段で大丈夫なの?安すぎるよ?』と心配されることもあります。」
今後の課題はあるものの、お客さんから「おかげで行くことができました」や「明日からの生きる希望になります」と感謝の言葉をもらうこともあり、大橋さんは「『あすも』という社名にふさわしく、この言葉のために会社を作ったんだ」と嬉しい気持ちになったと、笑いながら語ってくれました。

「普段、病院で働いている職員も患者の思いを叶えたいが、組織の秩序や、医療制度の制限により出来ない方もいます。しかし、『あすも』があることによって、『休みの日に参加させてください』とお申し出を受けることがあり、思いを果たせた職員もいました。」
病院で働く職員のみならず、アルバイトやボランティア、寄付者など多くの人が、あすも特注旅行班に関わってくれることで、人の温かみを感じられ、とても感慨深く嬉しいと語ります。今後、大橋さんは、より多くの人がサービスや法人運営に関われるようなプラットフォームにしていきたいと考えているそうです。

また、コロナ禍を経て福祉や医療のあり方が変化したことの一つに、個人事業主としてフリーランスで働く看護師の増加があり、業務委託という形で、あすも特注旅行班に関わってほしいとも語ってくれました。

「病気や障がいがある方が、行きたいところに行けないというのは、一つの社会課題だと考えています。」
あすも特注旅行班を利用するお客さんに満足してもらえることは嬉しい反面、利用者が増え続けることは社会課題の解決には程遠く、正しいことではないと大橋さんは語ります。

「今後の展望として、弊社は「理想の社会への移行期間」として、このようなサービスが当たり前なり、『皆知ってるよ』というような、サービスとなれば、旅行に行けないと後悔する状況も無くなると思います。」
介護付きの旅行が世間にもっと浸透すれば、たとえ専門の旅行会社がなくなったとしても、本人と家族が自由に旅行できる時代が来ると大橋さんは信じています。そして、その時代になるように、様々な分野であすも特注旅行班が貢献できればよいと考えているそうです。
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