福岡県糸島市に拠点を構える有限会社羅漢は、地域に根ざした葬儀業と、患者の移送や外出支援などを行う民間救急事業を展開している会社です。創業から25年、看取りやお別れの場面だけでなく、人生の大切な節目に寄り添うサービスを届けてきました。
代表取締役を務める徳久武洋(とくひさ たけひろ)さんは、「命のお仕事」という言葉で自身の取り組みを語ります。葬儀も民間救急も、そこには「人の時間を支え、彩りを添える」という共通の思いがあります。
徳久さんが「命のお仕事」に関心を持つようになった背景には、思春期に経験したある出来事が深く関係しているといいます。
「中学校に入ってすぐの頃、つい昨日まで一緒に遊んでいた友達が交通事故に遭いました。朝礼で担任の先生から『危篤の状態です』と聞かされて、1週間ほどで亡くなってしまって…。そのとき、命ってこんなにもはかないものなのか、と感じました」
あまりにも突然の別れにクラス全体が動揺し、先生が生徒たちを葬儀会場に連れて行くことになったそうです。

「小学校から付き合いのある友人だったので、本当に信じられませんでした」と、当時を振り返ります。さらに1年後には、母方の祖父との別れも経験しました。
「そういった“人の死”に若い頃から触れたことが、今になって思えば、この仕事に携わるきっかけだったのかもしれません」
高校では、周囲と同じように大学への進学を目指していた徳久さん。特別にやりたいことがあったわけではないが、一般的な進路として「大学に行くもの」だと自然に思っていたといいます。

受験の少し前、信仰熱心な母が人生相談しているお寺に一緒に行く機会がありました。進路に悩んでいた徳久さんに対し、そこの住職が「君は大学に行くよりも、人の死に目にあって社会勉強をした方が良いから、私は葬儀屋をすすめる」とアドバイスしました。
「みんなが大学に行くって決めているのに、自分だけ葬儀屋に行くっていうのがすごく抵抗がありましたが、結局受験に失敗しました。ちょっと人と違う人生もいいかなと思って、地元の葬儀屋さんを探して、決意を固めてこの業界に入りました」
葬儀の現場で5年間の経験を積み、徳久さんは親族が創立した葬儀社へ誘われ、入社。その後、1999年に社長へと就任します。

「葬儀屋というと、地元の名士のような方がやっていることが多く、先代社長や私のように名が知れていない者がやるには、とても時間がかかりました」
創業当時は一軒一軒、営業を行っていましたが、「人の死を待っているのか」と受け取られてしまうこともあり、苦労したと徳久さんは語ります。

地元での認知度や実績がない中で、どのように信頼を築いていくか。徳久さんたちは自分たちの足で地域を回り、当時では珍しかったポスティングなどを通じて会社の存在を知ってもらう営業活動を行いました。
「亡くなられて初めてのお盆である『初盆』を迎えるご家庭に営業をかけることで僕らと接触するきっかけを作り、ご依頼をいただいたお客さんのところには一生懸命設営しました」
葬儀とは関連しない他愛のない話や、困りごとの相談に乗るなどして、少しずつ信用を築いていき、軌道に乗ることができたそうです。

有限会社羅漢が所在する糸島市二丈深江を中心に、近隣の筑前前原や福岡市西区のお客さんから利用されていると徳久さんは語ります。

「葬儀のあり方というのは、非常に変わってきています。以前は『葬儀場で行うもの』というのが一般的でしたが、今では『家で最期までお別れしたい』というご希望を持たれる方も増えてきました」
「最期の姿は、その人にとって最も尊厳のあるもの」と語る徳久さんは、従来の葬儀のルールにとらわれることなく、本人または家族や友人が望む方法で送り出しても良いと考えています。

「この格好で送り出してあげたい、パーティーのような葬儀にしたい…。別れに残したい形には選択する自由があると考えているので、葬儀の形は色々あって良いと思います」
お客様の希望を最大限に引き出し、柔軟な提案ができるのは羅漢の強みであり、「家族葬といえば羅漢」と言ってもらえる葬儀社にしたいと語ってくれました。

多くの方を見送ってきた徳久さんは、祖母を看取った際に、もうひとつの「命に関わるかたち」に目を向けるようになります。それが民間救急の取り組みです。
「初めて祖母の介護をしていた時に、何か介護の仕事で役立てることがないのか…と考えるようになり、民間救急や介護タクシーの存在を知るきっかけになりました」

人と関わり、その人の「目標や目的」に寄り添うことが好きな徳久さんは、自身が運転や旅行が好きということもあり、民間救急の事業は魅力的だったと語ります。
その後、新事業として「民間救急らかん」のサービスを開始。消防が担う「緊急性の高い搬送」とは異なり、療養型病院への転院や寝たきり、車椅子、呼吸器が必要な重篤な患者を、本人またはご家族の希望する場所へ搬送します。
「結婚式に参列するための親御さんの移動支援が必要な方や、花見のために数時間利用したい方など、ご高齢者から若くて障害をお持ちの方々にご利用いただいています」

会社が保有する民間救急車での搬送だけでなく、看護師や介護士が付き添い、新幹線や飛行機といった公共交通機関を利用して、日本全国に患者を移送することも可能だと語ります。

民間救急を通じて4,000件以上の搬送を行ってきた中で、患者と家族が「こうやって旅行ができたらいいのにね」と話すのを、何度も耳にしてきた徳久さんは、「むにたび」というサービスの構想を形にしていきます。
「『唯一無二の思い出づくり』という思いから、『むにたび』というサービスを開始しました。病気や障害をお持ちの方でも気軽に温泉旅行ができるように、医療機器を積んだ車両と介護士や看護師が付き添い、必要なサポートを提供しています」

嬉野市や別府市などの近隣の温泉地に出かけるような場合、健常者とは異なり、多くの調整や準備が伴います。バリアフリー対応の宿泊先であっても、寝たきりのような重篤な患者の場合、宿泊や温泉への入浴は難しいことも多いと徳久さんは語ります。
「私たちが持つ機動力とネットワークを活かし、入院中の病院、旅行業者や宿泊業者と連携し、協力をいただきながら、外出や温泉旅行というひとつの目的に向かって築き上げるお手伝いをしています」

実際に旅行を実現したお客様から「とても良い思い出作りができました」と喜びの声をいただくことも多く、「民間救急や『むにたび』は非常にやりがいのある仕事です」と徳久さんは語ってくれました。
葬儀や民間救急といった業務は、多くの人に必要とされている一方で、事業を支える担い手が高齢化し、減少しているのが現状です。

「葬儀業に関しては、3K(きつい、汚い、危険)の印象を持たれることも少なからずあり、事業自体は365日対応しなければなりません。このように大変なイメージがあるため、なかなか次の担い手が集まりません」

有限会社羅漢では週休2日を実現したり、資格取得制度を提供するなど、働きやすい環境づくりに取り組んでいます。今後は、親や家族と過ごすための介護休暇なども制度化し、業界の負のイメージを払拭していきたいと考えています。
「弊社は患者さんや葬儀に訪れる方への思いを形にし、それを対価としていただく仕事です。スキルよりも、お客様から喜びを直接いただき、それをやりがいと感じられる方であれば、大歓迎です」

生と死は正反対のものであり、葬儀社という背景を持つ会社が、生きる希望を提供する民間救急を行うことについて、「あからさまではないか?」という懸念を持ったこともあると徳久さんは語ります。
「民間救急で人と関わり、その方の長い人生の中でほんのひとときであっても、私たちがその時間を共に過ごし、最後の日に一緒に見送る…。とても感慨深いことですし、その方のお役に立てたならうれしいという気持ちがあります」
民間救急と葬儀業、この2つの事業を羅漢では「命のお仕事」と総称しています。人の大切な場面に関わることで得られることは多く、とてもやりがいのある仕事だと語ります。

「僕自身がこの世界に入って強く感じたのは、一生懸命生きて、その生の最後に“死”があって、家族や知人がそれを見届け、『この人が居たんだ』ということを残していく。そのありのままの姿を見させていただきながら、ときに私たちのサポートで彩りを添えていけたらと考えています」
民間救急については、特に消防への貢献性が高いと感じており、今後の展望として、「九州一の民間救急ステーション」を作り、医療・介護・消防に貢献していきたいと語ります。より多くの搬送支援や「むにたび」の実現を目指し、これからも歩みを進めていくそうです。
ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
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