「社会的養護」とは、虐待や病気など、何らかの理由で保護者のいない子どもたちを児童養護施設などで保護・養育する取り組みです。福岡市中央区にあるNPO法人国際教育支援機構スマイリーフラワーズは、さらにその先にある「社会的自立」を支援するため、児童養護施設を卒園予定または卒園後の若者の大学、専門学校への進学支援や、海外留学を通して「人生を開花させる」ことを目標に取り組んでいる組織です。
このNPO法人の代表である窪田広信(くぼた ひろのぶ)さんは、幼少期にシングルマザーの家庭で育った経験、オーストラリアでのワーキングホリデー体験、そして初めて参加したボランティアでの女の子との出会いをきっかけに当組織を立ち上げることを決意し、これまでに100人以上の社会的養護を必要とする若者を支援してきました。
「ビジネスが成功しようがしまいが、私は社会的養護が必要とする若者を支援する、この道を行く覚悟を持ち続けています。」
NPO法人国際教育支援機構スマイリーフラワーズの事業は、大きく2つの領域に分かれています。1つ目は、一般の大学生や社会人といった若者向けに、英語圏への海外留学支援を収益事業として提供しています。2つ目は、親からの虐待や病気など、さまざまな事情で家庭に居られず、児童養護施設で暮らす子どもたちが社会で自立できるようにサポートを非営利で行っています。

4兄弟の末っ子として生まれた窪田さんは、幼い頃に両親が離婚し、父親の顔を知らないままシングルマザーの家庭で育ちました。
「すごく貧しい家庭だったのですが、母が明るい性格だったこともあり、明るい貧乏だったと今でも思います。兄は全員中卒で、私はそのお金で高校に行かせてもらえましたが、周りで大学に進学している人は居なかったので、自分も高校卒業後は就職しました。」
兄からは「仕事は我慢賃だ」と言われ、高校卒業後は特に好きでもないフォークリフトの運転手をしていました。しかし、1年半で転職を決意し、転々と仕事を変えます。
「25歳の時に生活も含めて行き詰まりを感じたのですが、その時にワーキングホリデーに出会い、これなら出来る!と思い世界に飛び出しました。これが私の大きな人生の転機となりました。」
「留学は高く、お金持ちしかできないこと」だと思っていた窪田さん。しかし、たまたまコンビニのアルバイト求人の雑誌で留学カウンセラーという職業を知り、それをきっかけにワーキングホリデーの存在を知りました。そして、その3ヶ月後にはオーストラリアに飛び立ちます。

これまで何かがうまくいかない時は、育ちや学歴へのコンプレックスといったネガティブな感情に逃げ込んでいたのですが、オーストラリアでの体験を通じて「世界はとにかく広く、私の悩みは小さいものだった」と感じ、それ以来ネガティブな感情を言い訳にしなくなりました。帰国後は海外留学の体験をもっと広めたいと考え、海外留学関連の会社に就職し、数年後にはビジネスパートナーと共に株式会社を設立します。

「ボランティアに赴いた際に1人で遊んでいた少女に声を掛けると、強い眼差しを私に向けながら「ウザい、キモい」と言ったのです。」
児童養護施設での活動に興味を持った窪田さんは、初めてボランティアに参加しますが、施設で暮らす1人の少女に強い言葉を投げられ、動揺します。引率する先生から「その子たちは、かつて周りの大人たちに投げられた言葉をただ返しているだけ」と聞かされ、「大人になっていくこの子たちに対して、社会が何かしてあげるべきだ」と考えるようになります。さらに、直属の部下が亡くなるという出来事も重なり、「自分は何のために会社を経営しているのか?」と自問自答するようになります。
「たくさんの人達の幸せを作るために会社を立ち上げたつもりなのに、それが出来ていない自分に向き合う機会があり、女の子との出会いが繋がり、そういう子達に対して自分ができる方法で「明日を生きる力」の未来への希望を提供できる団体を作りたいと思い、スマイリーフラワーズとして独立する道を選びました。」
窪田さんは、「自分を変えた留学」の事業を進めながら、「社会的養護を必要とする若者にも海外留学の機会を提供したい」と考え、団体を作ることを決意しました。

お客さんに信用してもらえる堅めの社名として「国際教育支援機構」を最初に思い浮かべましたが、妻から「施設の子には覚えてもらえないよね?」と言われ、「ひとりひとりが自分の花を咲かせる」という意味を込めて「スマイリーフラワーズ」という名前が生まれました。

「国際教育支援機構スマイリーフラワーズ」という名称は、前述の2つの単語を組み合わせてできたものです。制定した当初は良いと感じていた窪田さんですが、現在は書類に記入するたびに長い名前であることを若干後悔していると、笑いながら話してくれました。

「施設の子とたくさん関わっていくと海外だけではなく、国内でやりたい夢がある子達にも応援がしたいと考ました。」
元々は、留学を通じて児童養護施設の若者たちが各々の夢を叶えることを目標に立ち上げた団体でしたが、国内で夢を叶えたい子もいると知った窪田さんは、施設の卒園後に大学や専門学校への進学や就労をサポートするプロジェクトを提供するようになります。 また、窪田さんは、社会的養護とは18歳までの養護に留まらず、施設を卒業して仕事に定着するまでが本来の最終的な「自立」だと話します。

実際、卒園した子どもたちは進学や就労に苦労することが多く、その問題を解決するためには、卒園後の18歳から支援するのではなく、中学3年生や高校1年生といった進学や就職を考える前の子どもたちと関わり、お互いの関係性を少しずつ築くことで、進学や就職をよりスムーズに支援できると窪田さんは考えています。
「NPO法人は良くも悪くも、お金目的に繋がろうとする方は多くないので、私達の思いや活動に共感し、集まっていただける方々がほとんどです。」
株式会社ではなく、NPO法人という形態での経営には多くの苦労があると窪田さんは話します。通常の業務でも生き残れるか危惧しつつ、施設の子どもたちの支援を行う必要があるため、設立時から現在に至るまで葛藤を抱えているそうです。

「会社として成功してから、支援を行うべき」と色々な方から言われ、自身もそのように考える事もありましたが、「成功したから支援したい」のではなく、「たとえ失敗しても自分はこの道を歩んでいくんだ」という覚悟を持ち、活動してきました。
巣立っていく子どもたちや、活動に共感した方々と出会えたことで、窪田さんは「この10年間の活動を通して、間違っていなかった」と感じています。

「足元を照らす一つひとつの灯火が集まることで、やがて全体を照らす」という意味を持つ「一燈照隅(いっとうしょうぐう)」という言葉を窪田さんは特に気に入っており、自分一人では全てを照らすことはできないものの、「支援する若者を一人ひとり増やし、灯火をともすことで、その若者がまた別の灯火を照らし、やがてそれが広がり社会全体が変わっていく」という希望を持ち、目の前にいる若者の人生に関わる活動を今後も続けていきたいと話してくれました。

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