福岡県福津市にある福津妙法堂。この寺院の境内で、薬膳茶のスクールと野草講座を営むのが山下美佐子さんです。「命をつなぐお茶の学校 和心」の代表として、薬膳茶の調合を教えるスクール事業と、サロンや企業向けのオリジナル薬膳茶のプロデュース業を展開しています。
山下さんが薬膳茶に辿り着いたのは、幼い頃から体が弱かったことがきっかけでした。アロマの勉強から始まり、温泉施設でのマッサージ、そして山口県のお茶屋さんでの出会い。様々な経験を経て、緑茶もウーロン茶も紅茶もハーブも野草も、すべてをブレンドして体質に合わせたお茶を作る面白さに魅了されていきます。
山下さんは神戸市須磨区で生まれ、親の転勤で福岡県に移り住みました。双子として生まれた山下さんは、小さい頃から体が弱く、遠足の前に熱を出すなど、学校を休むことが多かった幼少時代だったと話します。

「社会に出たのは早く、自販機の整備士や生命保険の営業など、数え切れないほどの仕事を転々としてきましたが、体が弱かったからこそ、健康の方にいつも興味が向いていました」
山下さんが健康の世界に本格的に足を踏み入れたのは、大親友がきっかけでした。友人がアロマの資格を取るために、山下さんにマッサージのモデルになってほしいと頼まれたのです。
「アロマトリートメントでオイルマッサージを受けたのですが、とても気持ちが良くて。こんなに気持ち良いことが仕事になるんだと、その時思いました。」
山下さんもアロマの学校に通い始め、アロマインストラクターの資格を取得。産婦人科の看護助手や市の臨時職員など、いろいろな仕事を掛け持ちしながら、アロマの仕事や健康に関する資格の勉強を続けました。
その後温泉施設でマッサージの仕事を始めます。しかしそれはとても大変な仕事でした。

「次から次へとお客さんが来て、夜遅くまで7年間働きました。その結果血圧が上がり、肩に炎症を起こして熱出すこともあり、体がちょっと持たないなと感じました」
体を壊しかけた山下さんは、温泉施設を辞めることを決意します。次の道を模索している時、よく行く山口県で習い事でもと思い立った山下さんが探したのが、お茶屋さんでした。
「普通だったら緑茶は緑茶、ウーロン茶はウーロン茶として飲みますが、そのお茶屋さんではハーブや野草をブレンドして飲む方法を教わりました。それがとても面白かったです」

お茶を混ぜることに衝撃を受けた山下さんは、薬膳にも関心を持ちました。別のお茶屋さんで薬膳茶について勉強し資格を取得、その後福岡県に拠点を移し、活動を始めました。
「最初は野草に興味を持っていたのですが、野草を使った料理の道は大変だと感じていました。それでも健康を意識したものを提供したいと思った時にたどり着いたのが薬膳で、お茶のほうが取り組みやすいと思い、薬膳茶にたどり着きました」
自身の虚弱な体質に加えて、親世代の服薬の量の多さを目の当たりにしていた山下さんは「なるべく薬を控えた生き方と、年齢の重ね方をしていきたい」と考えるようになります。

「薬だけではなく、自然のものでも体を整えることができる。そういう選択肢があるということも若い世代たちの方たちに知ってほしいと思いました」
薬膳は中国の伝統医学である中医学の理論に基づき日本で発展してきた考え方です。自然の生薬や草木などを用いて体を健康に導きます。
「風邪を引いたら、生姜やシナモンをお湯に溶かして飲む。それだけでも薬膳にあたるので、難しいものではありません」

スーパーで購入できる黒豆や野草のヨモギなど、一般家庭で手軽に入手できる材料を薬膳として用います。体質に合わせて最適な材料を厳選していきます。
「薬膳とだけ聞くと、苦いとかまずいといったイメージを持たれますが、ハーブティーにもっとパンチを加えたものが薬膳茶だと思います。実際に飲んでみるとすごく美味しいという声をいただきます」
冷え性の方には体を温める性質のあるほうじ茶や紅茶をベースに、シナモンや生姜、クコの実やナツメをブレンド。逆に熱がこもりやすい方には体を冷やす性質のある烏龍茶や緑茶をベースに、菊の花や血圧を下げるクワの葉、ビワの葉やレモングラスをブレンドすると山下さんは話します。

「どのようにブレンドしてもだいたい美味しいお茶ができますが、風味のバランスも重要なので、私のスクールでは最適な組み合わせを教えています」
山下さんが営む「命をつなぐお茶の学校 和心」は2つの柱から成ります。1つは薬膳茶のスクール事業、もう1つはオリジナル薬膳茶のプロデュース業です。

スクールでは、薬膳茶の調合ができる人を育成しています。家庭で生かしたり、お友達にプレゼントしたり、気楽に調合ができることを目指す「薬膳茶調合士」のコースは、基礎講座と応用講座を合わせて受講します。
もっと仕事として本格的に薬膳カフェを作りたい、調合士として独立したい、講師になりたいという方には「薬膳茶ライフプランナー」というコースもあります。

それぞれのコースでは、薬膳の中医学の理論に基づいて基礎を学びます。自然の摂理、五行(木火土金水)、陰と陽。季節の食材、色、味覚(苦い甘いなど)、冷やす・温めるといった内容です。
「薬膳は暦(二十四節気)を大切にするので、その季節に合ったものを教えています。」
山下さんのスクールが他と違うところは、心についても本格的に学ぶという点です。
「中医学には、内臓と感情が関連しているという考えがあります。例えば肝臓だったら怒りの臓器というように、感情と症状を見ながら最適な配合を学んでいきます」

現在約14名のスクール生からは、このような話はすごく面白いという声をいただいているそうです。山下さんは今後もスクール生を増やしていきたいと話します。
「スクール生さんは自分でブレンドする事がすごく嬉しくて、お友達にプレゼントすることがあるとか。『美味しい』と喜んでもらったと話してくれました」

本格的に薬膳茶を事業として開業を目指すスクール生もおり、元々米屋だった店舗を薬膳サロンとしてリフォームし、2026年のオープンに向けて頑張っているそうです。
山下さんのもう1つの事業が、オリジナル薬膳茶のプロデュース業です。自宅でアロマサロンを営む友人の依頼で、オリジナルの薬膳茶を作ったことが、最初のプロデュースしたお茶でした。
他にも熊本の別所琴平神社で開催されているイベント「SIRASUマルシェ」向けにオリジナルブレンドの薬膳茶をプロデュースするなど、山下さんが作る薬膳茶は徐々に広がりを見せています。

「60gで2,000円するお茶があるのですが、作った本人もびっくりするぐらい、売れているものもあります。」
中でも山下さんの代表作と言えるのが、福津妙法堂の境内で採れる野草や、薬草を元にブレンドした薬草茶の「十方茶」、「月姫茶〜満月」や「月姫茶〜新月」です。

「最近はウォーキングの講師をされている方のお茶をプロデュースしています。その方のご要望やその場所で採れる材料を元に、そこにしかないオリジナルの薬膳茶を作るのが楽しいです」
山下さんが手がける薬膳茶「十方茶」の工房となっている福津妙法堂との出会いは、知り合いの紹介がきっかけでした。

「当時は野草に興味を持っていて、ヨモギが採れる場所を探していました。知人に聞いてみたところ、福津妙法堂に行けば色々な薬草があると知って、行ってみることにしました」
堂長と話していくうちに、「ヨモギだけではなく、ドクダミでもなんでも好きなだけ取っていいよ」と快諾され、境内で採れる野草を使って薬膳茶を作り始めました。また薬膳料理マイスターの資格を取得した事もあり、柿の葉の天ぷらや餃子などの野草料理もお寺の中で作るようになります。

当初「十方茶」の採取や加工などは山下さんと堂長の奥様の2人で行っていましたが、2人では限界がありました。そこに薬膳に興味を持つ人がクチコミで広がっていき、特に募集を行わなくてもボランティアの方が10人、20人と集まるようになったと山下さんは話します。

「この福津妙法堂さんがあったから、人が人を呼んで、ご縁が数珠つなぎで繋がっていると思います。」
福津妙法堂では、堂長の奥様が中心となり寺子屋の事業も始めています。昔に比べて現代の子どもたちは、昆虫採取など自然に触れる機会が少なっているという問題意識からです。

「お寺にくる子どもの中には、ここで採れた野草を天ぷらにしたと言っていた子もいました。お寺と協力して、私もこの事業を拡大していきたいと考えています」

山下さんが独立を決意したのは、市の会計年度職員という仕事をしていた時でした。野草に興味を持ち始めた頃でしたが、月16日勤務していたため、なかなか集中できなかったと話します。
「将来は独立したい気持ちはありましたが、収入面でやっていけるかという心配はありました。ここで決断しないと、またズルズルと4年過ごすことになるので、異動のタイミングで独立することにしました」
「ダメなら、また他のことをしてみよう」という思いで、2022年に「命をつなぐお茶の学校 和心」として独立した山下さんは、いろいろな方々が後押しして支えてくれていると話します。
「屋号は私の友人が亡くなったことに因んで名付けました。命をつないでいく、忙しい中でも自然に触れあって欲しいという思いで、この名前にしました」
この事業を通して、「気持ちがいい」「呼吸が楽になる」「久しぶりにリラックスできた」と言ってもらえることが、山下さんにとって何よりも嬉しいことです。
山下さんのスクールの強みは、薬膳茶をただ習って技術を身につけるだけでなく、皆さんと一緒に研修に行ったり、漢方薬を扱うお店や仕入れ先に訪れたり、1人では揃えることが難しい薬膳の材料を共同で購入するなど、近い関係性を築けることにあります。

スクール生100人を目指していますが、発信力の弱さに苦労を感じているとも話します。また、薬草の採取、加工に携わるボランティアの方も、季節によっては人手不足になるとも話します。
「元々趣味が高じて始めた事業ですが、ボランティアの方々にも賃金として払えるように還元していきたいと考えています」
今後の展望として、山下さんは2年後に法人化を目指しています。事業拡大を通して、野草や薬膳をより多くの人が身近に取り入られるようにしたいと山下さんは考えています。

「食料や物価高騰のなかで、野草は足元に生えている身近な食材です。知識を持っていれば美味しく食べられ、どんな環境でも人は生きられるので、野草などの知恵を身につけることは大事だと思います」
山下さんは今日も、福津妙法堂で薬膳茶と野草の魅力を伝え続けています。体が弱かったからこそ見つけた道、そして人が人を呼ぶご縁の輪。自然の恵みを活かしながら、健康で豊かな人生を送る知恵を、一人でも多くの人に届けています。

ファウンダーメンタリー(Foundermentary)は、様々な挑戦に立ち向かう人々の軌跡を発信しています。
事業変革や新規事業への取り組み、その背景にある想いのほか、決断に至るまでの迷いや困難との格闘など、挑戦者のリアルな声をドキュメンタリー映像として視聴者に届けます。作品を通して潜在顧客や求職者が企業や挑戦者をより深く知る機会を提供するとともに、起業・独立・事業承継を目指す方々に勇気と洞察を与える、「心を動かし、人とつながる」マルチメディアコンテンツを提供していきます。
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