「食卓品質」を守り抜く。創業50余年の食肉卸が、新しい時代に踏み出すまで。株式会社クロキ 黒木千佳さんの挑戦

食品製造・飲食業
2026年9月1日 公開
「食卓品質」を守り抜く。創業50余年の食肉卸が、新しい時代に踏み出すまで。株式会社クロキ 黒木千佳さんの挑戦

福岡県みやま市に、創業から50余年にわたって地域の食卓を支え続けている食肉卸会社があります。株式会社クロキは、九州産の和牛をスーパーや精肉店、飲食店へと届ける総合食肉卸売業を核に、冷凍惣菜事業、そして近年は調味料製造事業へと歩みを広げてきました。

その3代目として会社を担うのが、黒木千佳(くろき ちか)さんです。当初、旅行業界を志していましたが、コロナ禍の大学生の時に家業を手伝う中で芽生えた「自分にもできることがあるかもしれない」という思い、そして「ワクワクを通じて地球を思いやるきっかけづくりをしたい」という自分自身のミッション。その二つが重なったとき、黒木さんは迷いなく株式会社クロキへの入社を決めました。

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目利きの誇りと、安心安全への一貫したこだわり

株式会社クロキの食肉卸事業は、1970年の創業以来一貫して九州産の和牛を一頭買いするスタイルを守ってきました。スーパー、精肉店、飲食店など卸先のニーズに合わせてオーダーカットやスライス、ミンチ加工まで対応し、牛・豚・鶏・馬の4種類を取り扱っています。

その品質を長年支えてきたのが、肉職人歴30年以上のスタッフの存在です。市場で一頭ずつ目利きをして買い付け、肉や脂肪の色、きめの細やかさ、サシの入り方、弾力まで確かめてから仕入れるという手法は、今も変わらず会社の誇りだと黒木さんは話します。一頭買いによるコストメリットを活かした小ロット対応や、顧客の要望に応じたOEM製造など、大手にはできない小回りのよさも会社の強みです。

「自分が食べたくないものは出さない。当たり前のことかもしれませんが、その当たり前をしっかりやり続けることを、クロキではずっと大切にしてきました」

この姿勢は、冷凍惣菜事業にも受け継がれています。かつてBSE問題で食肉への不信感が社会的に広まった時期、「お肉を卸すだけでなく、自分たちが本当に安心安全だと思えるものを直接お客様に届けたい」という思いから冷凍惣菜事業がスタートしました。

最初に作った「KUROKIの生ハンバーグ」は、今も看板商品として愛されています。現在はハンバーグのほか、牛丼の具やソーセージなど、ラインナップを広げてきました。お肉の質へのこだわりはもちろんのこと、調味料も九州産・国産のものにこだわっているのが特徴です。

「スタッフさんの多くは主婦の方がほとんどなので、家に帰って焼いたり、揚げるだけで完成する『お手軽時短料理』を目指しました。お肉や調味料にこだわって、安心安全な冷凍惣菜を作っています」

数ある商品の中で黒木さんが今一番のおすすめだと語るのが、KUROKIの生ソーセージです。プレーンと瀬戸内レモンの2種類があり、バーベキューはもちろん、朝食やおつまみとしても楽しめます。お肉の味がそのまま感じられる仕上がりで、バーベキューでも大人気の一品です。

お肉屋さんが、ドレッシングをつくる理由

現社長である父が10年以上かけて研究し続けてきたお肉に合うタレのレシピがあり、「いつかお肉と一緒に販売したい」という父の思いを商品として世に出せる。それが、黒木さんが事業承継を決めた理由のひとつでもあり、商品開発には力を入れたと語ります。

「和牛は胃もたれするイメージがあり、少し距離を置かれることもあります。さっぱりと食べてもらいたいと考えて、野菜や果物を使ったドレッシングを開発することにしました」

肉に合わせる調味料として、タレが一般的ではありますが、「タレ」という名称だと他の商品に埋もれてしまう懸念を黒木さんは考えました。そこで、タレではなく「ドレッシング」にすることで、軽やかで手に取りやすいイメージと、他社との差別化を図りました。

株式会社クロキの最初のドレッシングとして完成したのが、「お肉屋さんが作った ゆず生姜ドレッシング」です。40〜60代の女性をターゲット層に作られたこの商品は、柑橘系の爽やかさとお肉との相性を掛け合わせ、牛・豚・鶏、何にかけても合うドレッシングに仕上げました。生姜はお肉との相性もよく、健康的なイメージがあるとして人気の商品になっています。

ゆず生姜ドレッシングを皮切りに、現在は4種類のラインナップを提供しています。特産品の山川みかんを40%以上使用した「みかんどれっしんぐ」は、照り焼き風の料理やカルパッチョにも応用できる万能な一品で、男性にも人気が高い定番商品です。みやま市の伝統的な木樽で漬け込んだ高菜漬けを使った「かけたかな」も、地域の食文化を感じさせるドレッシングとして好評を得ています。

そして黒木さんが一番のお気に入りだと語るのが、最新作の「なすジャポネソース」です。九州発祥とされるジャポネソースは玉ねぎを使うのが一般的ですが、福岡県内の生産量を誇るみやま市のなすを組み合わせることで、肉の旨味を感じることができる商品です。

「父が10年貯めていたオリジナルソースがベースで、元々は玉ねぎが使われていました。しかし、独特の玉ねぎの風味の関係で、和牛の旨味をうまく引き出せていませんでした。そこで、みやま市特産のなすを加熱してみると、とろみが出てお肉によく絡み、素材の味がない分、甘みが出てよく合うソースになったのが発見でした。ソースをご飯にかけるだけでも、何杯でもいけます。」

各ドレッシングに使う野菜や果物は、できる限りみやま市で採れたものを使用しています。「みやまの山川みかんを使ったドレッシング」と伝えることが、みやま市を知るきっかけとなり、地域活性化にもなる・・・。食を通じた自然なつながりを、黒木さんは大切にしています。

「『肉や野菜をあんまり食べない子どもが、ドレッシングを掛けたら食べてくれた』、という声をいただくこともあり、お客様に喜んで頂いたお声が本当に嬉しいです」

現在はドレッシングを百貨店や空港のショップのほか、自社オンラインショップ、全国のスーパーへと販路を広げており、台湾への輸出にも取り組んでいます。

捨てられるものに、価値を見出す

食肉の現場には、一般にはあまり知られていない現実があります。人気のある食肉が注目される一方で、皮や脂など、いわゆる畜産副産物と呼ばれる部位の多くが廃棄されているのです。業界では「眠れる宝の山」とも言われ、活用への研究が少しずつ進んでいます。

「3年ほど前、取引先から『工場に豚脂がたくさん余っているのだが、何かできないか』というご相談をいただき、豚脂について色々調べていくと、医薬品や化粧品の原料として承認されている成分だとわかったので、これを活用できないかと考えました。」

黒木さんが研究を進めていくうちに、会社で作業するスタッフの手荒れや、育児中でスキンケアに時間が取れない姉の悩みをヒントに生まれたのが、豚脂を60%以上配合したハンドクリームとオールインワンクリームです。

「豚を使ったスキンケア商品はなじみがないように思われるかもしれません。でも実は人間と豚は構造が近く、沖縄では昔から豚の油を髪や肌に使ってきたという話もあります。そういった背景もあり、スキンケアへの活用を考えました。」

新規スキンケア事業として「CHICA」というブランド名が発足しました。黒木さん自身の名前に加えて、「CH=Care Human(人を思いやる)」「CA=Care Animal(動物を思いやる)」という意味を込めてブランド名を決めたそうです。

スキンケア商品の研究が一段落した段階で、2025年に行ったクラウドファンディングの支援者に対して試供品を届けて、ユーザーの意見を集めています。フィードバックを元に更に改良し、商品化を目指していくと黒木さんは語ります。

廃棄されるものを活かす取り組みは、スキンケアだけにとどまりません。農業高校と連携して洗浄石鹸の研究開発を進めているほか、豚の皮や牛の骨についてはアーティストと連携し、器やインテリアへの転用も模索しています。「命をいただいているのだから、すべてに同じ価値がある」という信念が、黒木さんの事業展開の根幹にあります。

縮む市場と、それでも前を向く理由

「町の食肉卸会社」として、様々な事業を展開していく一方で、楽観できない現実もあります。株式会社クロキが身を置く食肉卸の市場は、じわじわと縮小していると黒木さんは話します。

「九州は元々牛肉の消費量が多かった地域なのですが、物価高等の影響で、同じ満足度のある豚肉へとシフトしていく消費者が増えています」

牛肉を食べていた消費者が豚に移り、豚を食べていた消費者が鶏肉へと変えていく。輸入肉の影響もあり、和牛・国産牛の消費が減り、スーパーの売り場でも牛肉コーナーが小さくなったり、大手が中間業者を省いて直接仕入れるケースも増えており、食肉卸という業態そのものの存在感が問われる時代になっています。

「実際に食肉卸業に入ってみると、私たちがいかに『影の存在であるか』ということを感じました。このままだと会社が潰れる可能性がある危機を正直抱いています」

みやま市の人口減少による採用難も、切実な課題のひとつです。だからこそ黒木さんは、ドレッシング事業の強化、スキンケア事業の立ち上げ、そして地域との連携を通じて、食肉卸一本足打法からの脱却を図ってきました。「ドレッシングでお肉をさっぱり食べてもらうことで、和牛を身近に感じてもらいたい」という思いには、事業としての危機感と、食文化を守りたいという願いの両方が込められています。

SNSでの発信やイベント出店を通じて少しずつ認知が広がった結果、祖父や父が「テレビで見たよ」「新聞に載ってたね」と声をかけられるようになりました。長年、裏方として地域の食卓を支えてきた会社が、ようやく顔の見える存在になってきた。その変化が、黒木さんにとっての大きな原動力になっています。

「食卓品質」という理念と、一緒に歩む仲間へ

株式会社クロキが大切にしている理念は、「食卓品質」という言葉に集約されています。口に入れるものも、肌に触れるものも、清潔で安心安全であること。食肉卸からドレッシング、スキンケアへと事業が広がる中でも、この一点だけは絶対に守り抜いていく、という宣言です。

「クロキではこれから食肉以外にも、暮らしに関わるものをどんどん作っていきますが、理念の『食卓品質』という言葉の意味は変わりません。お客様に届けるものすべてに、この思いをお伝えしたいです」

現在、株式会社クロキでは一緒に働く仲間を募集しています。主婦スタッフが多く、会話の弾む明るい職場であると黒木さんは話します。冷凍惣菜の社割や、スタッフの要望に合わせた時差出勤や勤務中の通院に合わせて柔軟に対応するなど、働きやすい環境づくりにも力を入れています。

「営業スタッフや商品開発、広告が得意な方を募集しています。基本的に何でも意見を言っていい社風なので、悩みを抱え込まずに、どんどん声にしてくれる方と一緒にお仕事できればと考えています」

食肉卸から始まった株式会社クロキは冷凍惣菜、ドレッシング、スキンケアと事業の幅がどんどん広がっていきます。「これ、やったことないけどやってみよう」と前向きに楽しめる人が来てくれたら、と黒木さんは笑います。

黒木さん自身も、事業承継を「しなければならないこと」として選んだわけではありませんでした。旅行業界を志し、コロナ禍の中で家業と向き合い、気づけば「自分の夢を乗せられる場所がここにある」と感じていました。だから今も、仕事をしているというより「夢を追いかけている感覚」で毎日を過ごしているそうです。

「将来持ってる夢として、みやま市に『食と暮らしのテーマパーク』を作りたいです。ステーキやハンバーグを楽しみながら、牛の骨を使ったワークショップ体験、そしてドレッシングや冷凍惣菜を手に取れるショップなど、食肉の課題や環境問題について、ワクワクしながら考えられる場所を作れるように頑張っています」

創業から50余年、株式会社クロキの歩みには、時代ごとの挑戦が刻まれています。祖父である会長は、九州でもいち早く真空機械を導入し、食肉の鮮度と品質を守る仕組みを整えました。現社長である父は、他社に先駆けてハラールミートの輸出に取り組み、食肉卸の可能性を広げてきました。そして今、3代目の黒木さんは、ドレッシング、スキンケア、地域とのコラボレーションと、次々と新たな領域へ踏み出しています。

食卓への誠実な向き合いと、時代を切り開く意志の積み重ね。その系譜を受け継ぎながら、食と暮らしを豊かにするという夢に向かって、3代目の挑戦はまだ始まったばかりです。

株式会社クロキ

  • 所在地 福岡県みやま市瀬高町上庄654-6
  • 設立 1970年
  • ドレッシング事業部主任 黒木 千佳
  • 電話番号 0944-63-2640
  • ウェブサイト kuroki-group.com
ファンメン編集部

ファンメン編集部

ファウンダーメンタリーは創立者、事業代表者、事業承継者など、新規事業や事業変革に挑む人々にフォーカス。単なる成功物語ではなく、挑戦の背景にある想い、困難との格闘、失敗や挫折を乗り越える過程まで、すべてをドキュメンタリー映像として記録します。

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